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役員の責任1(大阪高等裁判所平成27年10月29日

今日は、MBOが頓挫した場合における、取締役の会社に対する損害賠償責任について認めた裁判例を見てみましょう。

【事案の概要】

A社の創業者一族は、投資ファンドBと協力して、A社の二段階買収を計画し、実行に移した。その過程で、C(A社における本件MBOの担当執行役)が第三者機関EにA社株式の評価額の算定を依頼したところ、その結果は、買付者D側が依頼した別の期間F側による株式価格評価より高額であった。

そこで、A社の総業者一族であるA社取締役兼代表執行役社員であるY1は、MBOが頓挫することを恐れ、Cに対して、A社株式の評価額を下げるように誘導するメールを送信し、Y2(取締役)にも転送された。その後、Y1は、A社MBOの手続に介在することを辞め、Y3~Y5(社外取締役ら)が中心となって、D側と交渉した。その結果、A社とD社との間で合意が成立し、公開買い付けに関する内容が公表され、A社は賛同意見を表明した。

しかしながら、公開買付期間中にY1による前期の行為が発覚し、投資ファンドBの協力が得られなくなったため、A社は公開買付けについて不賛同表明をし、創業者一族による公開買付けは成立しなかった。

A社の株主Xは、Y1~Y5の善管注意義務違反等によって、MBOに向けての無駄な費用の支出などの損害が発生したと主張して、会社法423条1項に基づき、株主代表訴訟によって損害賠償請求をした。

【判例のポイント】

1 取締役の義務は、株主との関係では、最終的には一般株主に対する公正な企業価値の移転することに尽きる(公正価値移転義務)から、企業価値の移転にかかる公正な手続きとして想定される手続きの一部が欠け、あるいは一部の手続きに瑕疵があったとしても、最終的に公正な企業価値の移転がされていると認められれば、全体としては公正な手続きが採られたと評価すべき場合はあろうし、仮に個々の行為に善管注意義務違反が認められたとしても、損害が発生しないことになり、損害賠償義務は発生しない。

2 会社との関係を考えると、取締役が企業価値の移転について公正を害する行為を行えば、公開買付け、ひいてはMBO全体の公正に対する信頼を害することにより、会社は本来なら不要な出費を余儀なくされることは十分に考えられることから、取締役は、そのことによって会社が被った損害を賠償すべき義務を負う。このように、公開買付けあるいはMBOにおいて、企業(株式)価値の移転について取締役が負う公正性に関する義務は、会社に対する関係と株主に対する関係では異なる点があることに留意すべきである。

3 Y1は、買付者側の想定価格である700万円に近づけるため、根拠のない、薄弱な利益計画による数字合わせを図り、算定手法の選択や類似業者の選定にかかるE社の算定方法に不当に介入してその独立性を脅かしたものと認められる。以上のようなE社に対する株式価格の算定に対する介入が許される限度を超え、MBOにおける取締役としての善管注意義務に反するものであることは明らかである。

本件では,株式の評価を下げたこと自体でなく株式の評価を下げる根回しをしたことを見破られ、MBOを行ってもらえなくなったことが善管注意義務違反にあたり、MBOのために費やした金額が損害と認められています。

金額が折り合わなくなった際に下手に根回しをするのではなく、適切な資料に基づく税理士,会計士の意見などの根拠を追加できれば,D側も法的リスクがないと安心するため本件MBOは失敗せず,損害賠償義務も発生しなかったのではないでしょうか。

下手に根回ししてしまうと,それが原因でMBOが失敗した際に取締役の責任が認められてしまうということを頭に入れておき,リスク回避をしましょう。