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懲戒処分の社内公表

従業員の不祥事があった場合、会社は、就業規則に基づく懲戒処分を検討することになります。

従業員を懲戒処分とする際に悩ましいのが、懲戒処分の事実を社内に公表するかどうかです。

 

 

1.公表の必要性と注意点

 

会社とすれば、懲戒処分を公表することで、不祥事に対する厳しい姿勢を社内に示し、注意喚起や再発防止を図る(企業秩序の維持)効果が期待できます。

裁判例でも、就業規則に基づく懲戒処分の公表につき、「懲戒処分は、不都合な行為があった場合にこれを戒め、再発なきを期すものであることを考えると、そのような処分が行われたことを広く社内に知らしめ、注意を喚起することは、著しく不相当な方法によるものでない限り何ら不当なものとはいえない」とされています(東京地判平成19年4月27日労経速報1979号3頁)。

 

一方で、対象従業員からすると、懲戒事由に該当する行為があったという不名誉な事実が社内に知れ渡ることになれば、名誉プライバシーが傷つくことになります。また、ハラスメントの事案などでは、対象従業員だけではなく、被害に遭った従業員への配慮も必要です。

こうした配慮をせず安易に懲戒処分を公表してしまうと、不法行為(民法709条)に該当してしまい、当事者から損害賠償の請求等を受けてしまうリスクがあります。

 

 

2.公表が不法行為に該当するとされた裁判例

 

この問題の先例としては、東京地判昭和52年12月19日(判タ362号259頁)が有名です。

 

要旨は次のとおりです。

 

・ 解雇(特に懲戒解雇)の事実・その理由がみだりに公表されることは、その公表の範囲が会社内に限られるとしても、被解雇者の名誉・信用を著しく低下させるおそれがあるため、公表が許される範囲には限度がある。

 

・ 公表行為について、正当業務行為等を理由として違法性が阻却されるためには、当該公表行為が、その具体的状況のもと、社会的にみて相当と認められる場合(=①公表する側にとって必要やむを得ない事情があり②必要最小限の表現を用い③被解雇者の名誉・信用を可能な限り尊重した公表方法を用いて事実をありのままに公表した場合)に限られる。

 

・ この理は、不法行為たる名誉毀損の成否との関係では、当該被解雇者に対する解雇が有効か無効か、解雇理由とされる事実の存否には係わらない。

 

判旨のとおり、懲戒処分の公表の違法性は、懲戒処分それ自体の有効性とは別の問題です。たとえ現実に存在した懲戒事由をもとに有効な懲戒処分を行ったとしても、公表行為に問題があれば会社側に不法行為が成立し得る点に注意が必要です。

 

また、対象従業員から懲戒処分の有効性を争われ、これが無効とされた場合、会社による公表行為が不法行為と判断されてしまうリスクが高まります(懲戒解雇の事実を取引先に通知した事案につき、大阪地判平成11年3月31日労判767号60頁)。

 

 

3.公表の際に気をつけること

 

⑴ 個人の特定を避ける

 

対象従業員の氏名を出すことはもちろん、容易に個人が特定できる情報を公表すべきではありません。懲戒処分の公表は、あくまで企業秩序の維持を目的とするものであるところ、再発防止や注意喚起を図るうえで、対象従業員が誰であるかを特定することが必須とまではいえないからです。

 

⑵ 必要最小限に止める

 

公表する情報は必要最小限とし、懲戒事由に関する詳細な事実経過に言及すべきではありません。記載が詳細になるほど個人の特定が容易になりますし、名誉毀損・プライバシー侵害の程度も大きくなってしまうからです。

また、公表するのはあくまで事実のみとし、事実に対する会社側の心情・評価(特に、対象従業員への非難と受け取られる内容)を記載することは避けるべきです。

 

たとえば、次のような内容が考えられます(あくまで表示方法の一例です)。

 

・処分日:令和●年●月●日

・懲戒処分の内容:減給●円

・遅刻、欠勤理由につき繰り返し虚偽の申告をした(就業規則●条)

 

⑶ 公表場所・期間を限定する

 

社内掲示板(普段、部外者の目に触れないもの)に短期間掲示する、社内イントラに期間限定で載せるといった形で、限られた場所・期間において公表するよう配慮が必要です。加えて、当該情報が社外秘であること等について明示しておくなどの対応が考えられます。

こうした観点から、懲戒処分について説明した紙を全従業員に配布するといった方法は、基本的には控えた方が無難です。

 

 

4.結び

 

結局のところ、懲戒処分を公表すべきか否かは、企業秩序をどのように守っていくかという経営判断の問題といえます。

ただし、懲戒処分の公表それ自体が対象従業員への制裁となってはならないと考えます。問題行為への社内的制裁は専ら懲戒処分によって実現すべきであり、それ以上に対象従業員が罰せられる理由はないからです。

 

繰り返しになりますが、たとえ対象従業員について懲戒事由となる事実が存在したとしても、同人の名誉やプライバシーをみだりに傷つけてよいことにはなりません。秩序維持のために行った公表についてコンプライアンス違反を追及されたのでは逆効果です。

 

また、人間の判断に完璧があり得ない以上、後の裁判等により懲戒処分が無効となる可能性は常にあります。対象従業員への配慮を欠いた形で懲戒処分を公表すれば処分に対する不満に繋がり、トラブル・紛争の引き金になりかねません。

 

会社として懲戒処分の公表をお考えの場合は、上記リスクを踏まえ、対象従業員等の名誉・プライバシーに最大限配慮するほか、懲戒処分における手続保障を尽くすことが重要です(大阪地判平成23年9月15日では、懲戒処分を無効としつつも、公表方法が穏当であったこと等を理由に公表行為について不法行為の成立を否定しています)。

加えて、就業規則において懲戒処分の公表に関する規定を置いておくことも有効だと思います。

 

とくに少人数の会社の場合、経営者と従業員との距離が近く、問題行為に対して冷静に判断することが難しい傾向にあります。また、人数が少ない会社において個人を特定しない形での公表は困難であり、より慎重な配慮が求められます。

 

懲戒処分やその後の対応でお困りの際は、ぜひ弁護士にご相談ください。