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浜松の弁護士による会社のための法務教室⑧ 有給休暇買取りの問題点

静岡県浜松市の弁護士の大和田彩です。
鈴木・大和田法律事務所では、地域の企業の顧問業務その他の企業法務を中心的業務として取り扱っております。そこで、中小企業の法務部や総務、人事に関わっている方や取引担当者の方に向けて、役立つ情報を提供していけたらと考えております。
今回は、会社からご相談を受けることの多い、有給休暇の買取りについて、注意すべき点を解説します。

1  有休買取りは原則違法!
有給休暇の取得は、労働基準合第39条で定められている従業員の権利ですので、有給休暇の買取りは原則違法となります。

2 有給休暇の買取りが違法とならないケース
① 法律で定められた日数以上の有給休暇
有給休暇の日数については、労働基準法で最低基準が設けられています。もっとも、あくまで最低基準ですので、会社の個別の判断で、就業規則に定めることにより、労働基準法を上回る日数の有給休暇を付与することが可能です。このように、労働基準法に定められる以上の日数を付与している会社の場合、有給を買い取ったとしても従業員に不利益とはいえないため、違法とはなりません。
なお、従業員側から労働基準法を上回る日数分の有給の買取りを要求されたとしても、会社はこれを拒否することができます。

② 消滅時効を過ぎた有給休暇
有給休暇を取得する権利は、付与されて2年で消滅時効にかかるため、会社側が消滅時効を援用した場合、従業員は有給休暇を取得できなくなります(法改正の影響で、2020年4月より、給与債権については3年間(ゆくゆくは5年間)まで、時効期間が延びましたが、有給休暇については、2年間のままとなっています)。
このように、消滅時効にかかった有給日数を買い取ることは、従業員にとって不利益とはならないため、違法とはなりません。
なお、従業員側から消滅時効にかかった有給の買取りを要求されたとしても、会社はこれを拒否することができます。

③ 退職する際消化しきれなかった有給休暇
有給休暇を取得する権利は、退職後には行使できません。退職時に消化しきれなかった有給については買い取ることが可能です。
なお、従業員側から退職時に消化しきれなかった有給の買取りを要求されたとしても、会社はこれを拒否することができます。
 もっとも、退職があまり円満ではないような場合で、従業員側から有給の買取りを条件として退職に合意すると申し出られているような場合、会社側としては、有給を買取り、退職交渉をするようなことはあるかと思います。退職勧奨に基づく退職ですとか円満とはいえない退職の場合、従業員から従業員としての地位確認の訴訟などを起こされることがあり、その場合、会社側が訴訟などで負けてしまうと、多額の賃金を支払う必要が生じることがあります。ですから、従業員の任意に基づく有給の買取りをてことして、退職合意を得るというのは、会社にとって、大きなメリットとなることがあります。
また、有給買取りにより退職日を早めに合意することができれば、社会保険料の会社負担部分の支出を抑えることができるため、そのてんにおいても会社にとってもメリットになるでしょう。
このような場合であっても、有給休暇の買取りは原則違法であることを重々ふまえ、後になって、従業員の方から有給取得を拒まれたなどと主張されないように、有休取得について書面で合意を残すようにしておくとスムーズかと思います(争いが起こりにくいですし、争われたとして、任意に応じたことの立証に役立ちます)。

3 有給を買い取る際の扱い、計算方法
有給休暇を買い取る場合、「賞与」として扱われます。賞与に関しては、天引きする源泉所得税の算定方法が給与のものと異なりますので気をつけましょう。また、賞与支給ですので、支給後5日以内に年金事務所に賞与支給の届けを提出する必要が生じますので、この点についても留意しましょう。なお、退職の際、消化しきれなかった有給休暇を買い取る場合(上記③の場合)には、税金上の扱いが退職所得となり、給与や賞与より税額が低くなります。
有給休暇を買い取る場合の金額については、平均賃金、健康保険法に定める標準報酬月額、所定労働時間で働いた場合に支払われる通常の賃金などを基準に算定されています。
その他、有給買取りについて、就業規則に定めるなどの方法により、会社の任意の基準によって一律に買取額を定めることも可能です(上記③のような退職の際の有給買取りの場合は、従業員の方が買取り額についても任意に合意したと立証するために、退職合意書に有給買取額についても記載するなどしておくと良いでしょう。)。

4 その他、予防法務的観点から
労働基準法が改正され、2019年4月以降は、使用者は、法定の年次有給休暇付与日数が10日以上のすべての労働者に対し、毎年5日、年次有給休暇を確実に取得させる必要があります。
有給休暇取得の義務を守れなかった場合、使用者側は、労働者1人あたり30万円以下の罰金に処されます。従業員数が多い会社など管理するのが大変ですね。
  これに対する対策として、使用者側が年5日までは、労働者の意見を聴取したうえで、時季を指定してさせることができます(時季指定といいます。)。このように、会社(使用者)としては、労使協定に基づいた計画年休を用いることによって、有給が適切に消化されているか管理するのもよろしいかと思います。

企業の人事、総務のご担当の方は、有給休暇の問題についてもご確認のうえ、何かご不明な点があれば、いちど詳しい弁護士にご相談ください。