債権回収

債権回収で重要なポイントは、取り掛かりの早さ割り切りです。

通常、債務者の資金繰りは時間が経過するほど悪化していき、他の債権者も回収に乗り出してきます。そうすると、債務者の少ない財産を債権者同士で取り合う状態となり、いよいよ立ち行かなくなった債務者は破産等に至ります。
債権回収では、取り掛かりの早い債権者ほど、数ある手段の中から有利なものを選択することができるのです。

とはいえ、現行の法制度上、債権者ができることにも限界があります。この点を十分に理解していないと、費用倒れとなり、ますます損失が拡大しかねません。
債権回収を行う際には、どこまで費用を掛け、どの程度の結果で妥協するかといった目標ラインを適切に設定しておく必要があります。

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債権回収は時間との勝負

債務者が廃業・破産等に陥るまでの流れは、概ね以下のとおりです。

  • ① 支払いのための資金が不足する。
  • ② 債権者の一部と交渉して不足分を猶予してもらう。
  • ③ 自身に影響の少ない支払いを止め、重要な弁済を(最低限)維持する。
  • ④ 事業(生活)を継続するために自らの資産を現金化または担保に供する。
  • ⑤ 経済活動が不可能となり、廃業・破産を余儀なくされる。

⑤の状態に至ってしまうと、もはや債権回収は絶望的と言わざるを得ません。破産手続において債務者の財産から債権者に配当が行われることもありますが、通常、債権額からすれば微々たるものです。

④についても、経済の立て直しというよりも単なる延命措置であり、遅かれ早かれ破綻は免れないと見た方が賢明です。この状態に至ると、既に債権者全体が回収に向けて動き出し、めぼしい財産は既に失われていることも少なくありません。
また、破綻が明らかな債務者から強引に回収を図った場合、後の破産手続において、破産管財人から返還請求等(否認権行使)を受けるリスクもあります。

現在の法制度上、債務者が倒産状態に陥れば、原則として、債権者は回収を断念せざるを得ません。まさに「無い袖は振れない」ということです。

したがって、債権回収を図るには遅くとも③、できれば②の段階で動くのが理想的といえます。

②③の債務者は、完全な支払いを実行することはできないものの、キャッシュが一切失われたわけでもありません。そこで、この段階で重要な点は、限られたキャッシュをお客様に割かざるを得ない状況を作り出すことであり、その手段として弁護士への依頼が非常に効果的です。

弁護士に債権回収を依頼する効果

  • 債務者に裁判を意識させ、支払を拒否しづらくする(お客様を「重要な債権者」に位置づけさせる)。
  • 業務として回収を行うため、情に流されて問題が曖昧にならない。
  • 限りある債務者財産に対して最適のアプローチを選択できる。
  • 第三者的視点で状況分析を行うことで、最善の解決方法をご提案できる。
  • 民事保全により、他の債権者に先んじた財産確保を実行できるケースもある。

契約書や念書だけでは強制執行はできない

債務者が支払いをしない理由は様々です。契約の成立やその内容を争っている場合もあれば、最初から踏み倒すつもりで取引を持ち掛けてくるケースもあり得ます。
しかし他方で、当初はお金を支払うつもりだったものの、単純に資金不足に陥る債務者も少なくありません。

いかなる理由があったとしても、債務者が支払いに応じない場合、担保を有していない債権者としては、強制執行により財産を取り上げるしかありません。しかし、そのためには債務名義と呼ばれる文書が必要となります。

債務名義とは、お客様の債権の存在を記した公的な文書のことで、確定判決、仮執行宣言付判決、和解調書、調停調書、執行許諾文言付公正証書、仮執行宣言付支払督促などを指します。つまり、強制執行を行うためには、裁判所などの公的機関を通じてお客様の権利を確定させておく必要があり、たとえ債務者から念書や借用書を取り付けていても、それだけでは不十分なのです。

裁判には時間と労力が必要

債務名義を獲得するための代表的な方法は裁判です。
しかし、訴訟を提起してから第一審判決の言渡しまで、早くても約2〜3ヶ月(債務者が請求内容を争わなかったり、裁判に欠席したりした場合)、平均的なペースで約6ヶ月〜1年程度の期間が必要です。
また、債務者が請求内容を争ってきた場合、主張立証次第では債権の一部ないし全部が認められない(敗訴)の危険もあります。仮に敗訴は免れたとしても、要領の良い訴訟活動ができなければ審理に余分な時間(訴訟期日が1回延びれば、約1は解決が遅れます)を費やすことになってしまいます。

実務上、訴訟に要する期間を劇的に短縮することは困難です。したがって、債権者側としては、最初から「訴訟が決着するには6ヶ月〜1年掛かる」と想定し、債務者の1年後の資力を見越した回収活動を行うのが賢明といえます。つまり、債務者が行き詰ってから訴訟を起こすのでは手遅れになりかねないということです。

回収ができない債権を漫然と抱え続けることは好ましくありません。弁護士にご相談のうえ、案件に見合った方針を出来るだけ早期に実行することが大切です。

裁判所の限界

裁判においては、手続に必要な情報や証拠を自分で準備しなければなりません。

たとえば、債務者の行方が分からなくなってしまった場合、債権者自身で所在調査を行う必要があります(どうしても分からなければ公示送達という方法で手続きを進めることは可能です)。
また、請求内容を債務者が争ってきた場合、債権者としては、自身の権利が確かに存在するという証拠を提出しなければなりません。たとえ相手方が嘘を述べていたとしても、裁判所が自ら進んで事実調査をしてくれるわけではありません。

このことは訴訟において勝訴判決を獲得した場合であっても同様です。

勝訴判決は、裁判所が債権者の請求を権利として認めたことを意味します。しかし、判決を出した裁判所は、債務者が判決どおりの支払いをしなかったとしても、債務者を処罰したり、債務者に圧力を掛けたりすることはありません。判決内容が守られない場合、債権者としては強制執行を申し立てることができるのみです。

もっとも、強制執行を行うには、対象となる財産の情報を債権者側が特定しなければなりません。つまり、「○○銀行の○○支店に預金がある」「○○という会社に勤務して給与を得ている」「○○に不動産を所有している」といった情報がなければ、そもそも強制執行を行うことができないのです。

弁護士の専門性はこうした各局面において最大限に発揮されます。代表例としては、裁判所における主張立証活動が挙げられますが、それ以外にも、弁護士には一般の方では不可能な調査が可能なケースも少なからずあります。

弁護士が可能な調査の一例

  • 債務者の住民票の履歴を照会し、住所を調べる。
  • 債務者が契約している電話会社等に照会を行い、住所を調べる。
  • 金融機関に照会し、債務者名義の預金口座の有無及び金額を調べる(例外あり)。

満額回収に固執しすぎないことが重要

債権回収案件の傾向を整理すると以下のようになります。

  • 債務者の経済状況が悪化するほど回収が難しくなる(時間との勝負)
  • 裁判(特に判決)には相応の時間が必要
  • 強制執行が成功するには一定の条件が揃っていなければならない
  • とはいえ、裁判や強制執行は実際にやってみないと結果が分からない

したがって、債権回収を行う際には次のように考えるのが合理的です。

  • ① 強制執行すべき財産等が判明していれば真っ先に確保を検討する
    → 代物弁済、担保の設定、民事保全など
  • ② 裁判よりは交渉で解決するのが理想
  • ③ しかし、訴訟提起のタイミングを誤ってはいけない
  • ④ 訴訟においても和解を視野に入れる

裁判は時間や費用も掛かるうえ、回収に失敗すれば何も得られません。であるならば、現実的に債務者が支払える限度に金額を減額してでも、交渉段階で早期に解決してしまった方が得策といえます。
一括での回収が難しい場合には、分割払いを認めるという方法もあります。その際は、保証人などの担保を求めたり、裁判によらずに強制執行ができるよう執行許諾文言付公正証書を作成したり、勤務先など債務者の財産に関する情報を開示させたりといった条件を提示してみることが重要です。

こうした視点は訴訟提起後も大切となります。判決と和解では審理に要する時間が大きく変わってくるほか、証拠の有無によっては敗訴のリスクもあるうえ、上訴となれば更に追加コストが生ずるからです。

上記①~④を適切に実践するには、当該案件が訴訟になった場合の見通し(予想される判決内容、審理に必要な時間、執行における回収の余地など)を常にイメージできなければなりません。債権回収を弁護士に依頼するメリットはこの点にあります。

顧問弁護士の活用を

債権回収においては、他の債権者に先んじて、法的手続を念頭に置いた適切な対策を講じていくことが必要です。こうした観点で言えば、迅速に弁護士へアクセスできる環境を有している債権者の方が圧倒的に有利といえます。
また、仮に回収が難しい案件であったとしても、状況によっては相手方との取引を中止するなどの措置が取れる場合もあり、損失の拡大を防止することに繋がります。

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