弁護士の鈴木悠太です。
久しぶりの「改正相続法のポイント」ですが、今回は相続と対抗要件に関する重要な改正をご紹介します。
今回の記事については、前提知識として不動産登記という制度を理解いただく必要があります。
この点については、私が過去に書いた記事を併せてお読みください。
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1.現在の判例実務
【例題】
被相続人が死亡し、相続人は長男Aと次男Bの2人。
遺産としては浜松市内の某土地(被相続人単独名義)がある。
という事案を考えてみましょう。
本問では、AとBの法定相続分は各2分の1となります。
したがって、上記土地については…
- A・B2分の1ずつの共有とする
- 一方が他方に「代償金」と呼ばれるお金を支払って当該土地を単独所有とする
等の処理が考えられます。
本問では、AとBの遺産分割協議の結果、Aが土地の全部を取得することで合意が成立したとします。
ところが、その後にBが当該土地について自己の相続分である2分の1の共有登記をし、これを全く関係のないCさんに売却してしまい、所有権移転登記を済ましてしまったらどうなるでしょうか?
【遺産分割と登記】
本問では、Bから土地を購入したCに対し、「この土地に関するBの権利は既に遺産分割によって自分の物となっているのだ!」というAさんの主張を認めるべきかということが問題となります。
判例は、ABの遺産分割は民法177条の物権の得喪に該当するから登記のないAの主張は認められないという結論に立ちます(最判昭和46年1月26日民集25巻1号90頁)。
なお、この点はAが当該土地を被相続人から遺贈(特定遺贈)された場合も同様と解されています(最判昭和39年3月6日民集18巻3号437頁)。
【相続させる旨の遺言と登記】
相続においては、遺産である特定の財産をある相続人に「相続させる」旨の遺言が存在する場合があります。
たとえば、「浜松市内の某土地を長男Aに相続させる」といった遺言がそれです。
では、上記例題において「遺産はすべてAに相続させる」旨の遺言があったにもかかわらず、Bが土地の2分の1について法定相続分による共有登記を行い、当該持分をCに売却して所有権移転登記まで完了してしまった場合はどうなるでしょうか?
先ほどの遺産分割の例とは異なり、この場合のAは登記なくして土地全部について自己の所有権をCに対抗することができるというのが判例です(最判平成14年6月10日判時1791号59頁)。
そのため、Aとしては、先行してCに登記をされたとしても、自らの権利を脅かされることはありませんでした。
2.改正の内容
ところが、今回の相続法改正により、相続させる旨の遺言があった場合でも、当該土地のうちAの法定相続分を超える部分については対抗要件(本問でいえば登記)を具備しなければ第三者Cに対抗できないと定められました(民法899条の2第1項)。
したがって、改正法のもとでは、AはCに対して当該土地全部の所有権を対抗できず、Cが2分の1の持ち分を得ることになります。
なぜこのような改正をしたかといいますと、そもそも遺言というものは外からはその存在や内容がわかりにくく、現状の判例実務では第三者(Cのように持ち分を購入した者だけでなく、当該持ち分を差し押さえたBの債権者も含まれます)の利益が大きく害されてしまうという問題がありました。
また、Cのように登記(本問のようにBが2分の1の持ち分を有しているとの共有登記があれば尚更ですし、登記名義が被相続人のままだとしても外から見ればBに法定相続分である2分の1の権利があるように見えるでしょう)を信じて取引関係等に入ってきた者が後から負けてしまうのでは、公示制度としての不動産登記制度の信頼にも関わってきます。
こうした理由から今回の改正に至ったというわけです。
今後は、「相続させる旨の遺言」があるからといって登記を怠ることのないよう気をつける必要があります。
3.いつから施行されるか?
民法899条の2については、2019年7月1日から施行されます。
遺産分割・遺言のご相談は、浜松市の鈴木・大和田法律事務所までお問い合わせください。
先日、相続のページをリニューアルしたので、関心のある方は是非ご覧ください。
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