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振込手数料は誰の負担?

日々の取引において、代金の支払いを口座振込みで行うケースは非常に多いかと思います。

その際、このような場面を経験したことはないでしょうか?

顧客から「振込手数料を差し引く」と言われた。

入金確認ができた顧客から「領収書が欲しい」と言われた。

今日は、このような疑問について解説したいと思います。

振込手数料の負担について


1回につき数百円の話ではありますが、積み重なると大きいのが振込手数料です。

これについて、民法485条は次のとおり定めています。

弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

本条にいう「弁済の費用」とは、

・商品を輸送するための運送費

・商品輸入時の関税

・債権者の住所を訪問するための交通費

・口座振込みの際の振込手数料

等を指します。

つまり、振込手数料は債務者(顧客)が負担するのが民法上の原則となります。

なお、口座振込みについては、平成29年の民法改正にあたり新たに477条が定められました。

債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済は、債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に、その効力を生ずる。

本条によれば、顧客側が振込依頼をしたものの銀行側のミスにより振込手続ができなかった場合には、弁済の効力が生じません。

口座振込みに対する領収書について


口座振込みをすれば、振込依頼書などの証拠が顧客側に残ります。そのため、重ねて領収書を発行する意味がないようにも思われます。

しかし、民法486条は次のとおり定めています。

弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。

本条にいう「受取証書」とは弁済の証拠となる文書を指し、その典型は領収書です。つまり、債務者(顧客)から求められた場合、債権者は領収書等の交付義務を負います。しかも、債務の弁済と受取証書の交付とは同時履行の関係に立つため、債務者(顧客側)としては、債権者が受取証書の交付の拒絶する限り、代金の支払いをしなくても履行遅滞になりません。

なお前述のとおり、口座振込みについて弁済の効力が発生するのは、債権者が銀行等に対して「その払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時」ですが(民法477条)、債務者(顧客)において当該事実を認識することは困難といえます。したがって、口座振込みのケースにおいても、債務者にとって領収書を受領する実益が全くないとはいえません。

実務上の注意点


振込手数料の負担については、当事者間で合意すれば民法とは異なったルールを採用することが可能です。そこで、購入代金を振込手数料差引きで支払っていらっしゃる企業様としては、民法485条を適用しない(振込手数料を債権者負担とする)との特約を契約書等に盛り込んでおくのが理想です。こうした特約の存在が認められない場合、差し引いた振込手数料相当額について債務不履行と扱われてしまう可能性があります。

反対に、顧客から振込手数料の差引を求められている企業様としては、民法485条の存在を知っておくことで交渉が行いやすくなると思います。

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