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浜松の弁護士による会社のための法務教室⑦ 労災事故に関する会社の賠償責任

静岡県浜松市の女性弁護士、大和田彩です。

 

鈴木・大和田法律事務所では、地域の企業の顧問業務その他の企業法務を中心的業務として取り扱っております。そこで、中小企業の法務部や総務、人事に携わっている方や取引担当者の方に向けて、役立つ情報を提供していけたらと考えております。
今回は、日頃、浜松市周辺の企業様よりご相談を受ける機会の多い、労働災害事故に関する会社の賠償責任について注意すべき点を解説します。

 

従業員の方が業務中に労働災害事故に遭い、その生命・身体に損害が発生したような場合、会社もその損害を賠償する責任を負うことがあります。

 

【会社が賠償義務を負う場合】

 

 

1 安全配慮義務違反(労働契約法5条、労働安全衛生法3条)

 

使用者は、労働者に対し、労働契約に伴い、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条)。
また、事業者は、単に労働安全衛生法に定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならないという義務を負います(労働安全衛生法3条)。
会社がこれらの義務に違反し、労働者に損害を与えた場合、従業員に対し、債務不履行責任(民法415条)としての損害賠償義務を負うことになります。
すなわち、労働者にとって、危険な状況が放置されたことを原因として労働災害が発生した場合には、会社は労働者に対して、安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任として損害賠償義務を負うことになります。機械の整備がずさんだった場合、従業員同士の連携体制が整備されていなかったような場合、長時間労働など過重労働が横行していたような場合、パワーハラスメント、セクシャルハラスメントなどがあったにもかかわらず、会社が必要な是正措置をとれていなかったような場合にも、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が認められています。

 

2 使用者責任(民法715条)

 

被害者以外の従業員が機械の操作を誤り、被害者を機械に巻き込んでけがをさせた場合など、従業員に不法行為(民法709条)が成立する場合に、会社が使用者責任を問われる場合があります。
ただし、会社が従業員の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生じたといえる場合は、会社が損害賠償義務を免れることができます。
なお、加害者の不法行為責任と会社の使用者責任とは不真正連帯債務となりますが、会社が被害者の賠償に応じた場合、会社から加害者に対して求償することができます(民法715条3項)。

【被害者にも過失がある場合】

労災事故について、加害者や、使用者責任を負う会社、安全配慮義務に違反した会社に責任があるとしても、被害者側にも過失がある場合もあります。
そのような場合、会社としては、過失相殺を主張して、その割合に応じた賠償を行っていくことになります。
なお、過失相殺と、後に解説する労災給付金との損益相殺との順序について、裁判例では様々な判断がなされていますが、近時においては、総損害額を先に過失相殺して残額から労災給付金を差し引く計算方法が多く採用されている傾向にあります。

 

【労災保険で賄われる部分と会社が責任を負う部分との関係】

労働災害事故が発生した場合、労災保険においても一定の額の賠償がなされますが、主に、治療費などについての賠償にとどまり、例えば、慰謝料などについては賄われません。
したがって、被害者が、労災保険の給付を得たうえであっても、通院慰謝料、後遺障害慰謝料、休業損害、逸失利益などについて会社に賠償請求を行うと、認められる場合があります。
なお、労災給付金で賄われた部分については、損害額から給付額を控除することができます(損益相殺といいます。)。公的保険給付との損益相殺については、保険給付の目的・性質に応じて、同一性のある損害の限度で控除されます。これを費目拘束といい、積極損害・消極損害・慰謝料の枠を超えては控除できないこととなります(費目間流用の禁止)。
最高裁判所の判決においても、「保険給付と損害賠償とは「同一の事由」の関係にあるとは、保険給付の趣旨目的と民事上の損害賠償のそれとが一致すること、すなわち、保険給付の対象となる損害とが同性質であり、保険給付と損害賠償とが相互補完性を有する関係にある場合をいうものと解すべきであって、単に同一の事故から生じた損害であることをいうものではない。」、「労働者災害補償保険法による休業補償給付・傷病補償年金、厚生年金保険法による傷害年金が対象とする損害と同一の事由の関係にあると肯定することができるのは、財産的損害のうちの消極損害(いわゆる逸失利益)のみである。」、「したがって、右の保険給付が現に認定された消極損害の額を上回るとしても、超過分を財産的損害のうちの積極損害または精神的損害(慰謝料)から控除することは許されない。」と判断されています(最判昭和62年7月10日、民集41巻5号1202頁)。

 

【労働災害についての会社の責任の消滅時効】※2020年4月より

1 安全配慮義務違反

会社の安全配慮義務違反による損害賠償請求についての消滅時効は、賠償請求権の発生を認識したときから5年または履行期から10年(人身傷害の場合は20年)のいずれか早い方となりました。

2 使用者責任

改正民法724条の2により、生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、被害者が損害及び加害者を知った時から5年となりました。

 

このように、労災事故について、会社が賠償責任を負う場合があり、事故の内容によっては、会社の賠償額が多額にのぼることもありますが、過失相殺など、損害賠償請求について争うことができる手段もあります。
労働災害について従業員である被害者から損害賠償請求をされている(あるいはその虞がある)企業のご担当者の方は、いちど企業法務、労使間トラブルに詳しい弁護士にご相談されることをおすすめします。

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