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チャイルドシートと過失相殺

チャイルドシートを巡る法規制と着用実態


6歳未満の幼児を自動車に乗せて運転する場合、原則としてチャイルドシートを使用する義務があり(道路交通法第71条の3第3項)、違反した運転者には違反点数一点が付されます。

警察庁と一般社団法人日本自動車連盟(JAF)が実施した全国調査によると、2019年のチャイルドシート着用率は70.5%とのことです。

年齢別の着用率を見ていくと、1歳未満:88.0%1歳~4歳:72.4%5歳:48.0%となっています。


※詳細は以下のリンクからご覧下さい。

https://jaf.or.jp/-/media/1/2590/2610/2639/2653/3120/crsdata2019_002.pdf?la=ja-JP


5歳児について着用率が低くなっていることが印象的ですね。


チャイルドシート不使用は過失相殺の対象


チャイルドシートは幼児を自動車事故から守る上で重要な装置であり、これを使用していなかったことが原因で重篤な結果に繋がってしまうケースも少なくありません。


交通事故等について被害者にも過失がある場合、その程度に応じて損害賠償額が減額されます(民法第722条2項)。これを過失相殺といいます。

交通事故でよく聞く「100:0」「90:10」「50:50」という言葉は、この過失相殺率のベースとなる過失割合を指しています。


過失相殺の理論的根拠については諸説あるのですが、共通して言えることとして、たとえ加害者が悪いとしても、被害者側の原因で発生・拡大した事故ないし損害についてまで賠償責任を負担させるのは適切ではないという考え方が根底にあります。


判例上、チャイルドシートの不使用は過失相殺の対象として扱われるのが通常といえます。


もちろん、チャイルドシートを使用していても事故そのもの(衝突)を回避できるわけではありません。

しかし、たとえば幼児が車外に投げ出される等、チャイルドシートを使用していないことは有事の際の危険度を大きく高めます。また、前述のとおり、チャイルドシートの使用は法的な義務です。

したがって、チャイルドシート使用していなかったことが死傷結果の一因になっているとすれば、この点を損害賠償額を定める際に考慮せざるを得ないのです。


ただし、被害者である幼児(6歳未満)には未だ事理弁識能力(事柄の当否を判断する能力)が備わっていないと考えられていますので、チャイルドシートの不使用を幼児の自己責任と扱うことはできません。

実務上、チャイルドシート不使用については、幼児の監督者である父母など同子と身分上ないし生活関係上一体をなすと認められる者の落ち度として過失相殺が行われます(最判昭和42年6月27日民集21巻6号1507頁参照)。こうした考え方を「被害者側の過失」といいます。

過失相殺率の目安


過失相殺率については5~10%が目安です(大阪地判平成15年9月24日交民36巻5号1333頁、大阪地判平成20年3月13日交民41巻2号310頁、名古屋地判平成24年11月27日交民45巻6号1370頁など)。


過失相殺が否定される場合


1.チャイルドシート着用義務がない場合


疾病のためチャイルドシートを使用させることが療養上適当でない幼児を乗車させるときなど一定の場合にはチャイルドシート着用義務がありません(道路交通法第71条の3第3項ただし書、同施行令第26条の3の2第3項)。

このようなケースで、チャイルドシート不使用について過失相殺を行うことは基本的に相当ではないと考えます。

2.損害の発生・拡大との因果関係がない場合


前述のとおり、チャイルドシート不使用について過失相殺を行う根拠は、損害の発生・拡大への寄与にあります。したがって、チャイルドシートを使用していたとしても同様の損害が発生していたと言うべきケースなど、チャイルドシート不使用と損害の発生・拡大との間に因果関係が認められない場合には過失相殺は否定されます。

こうした因果関係は、事故の態様(衝突箇所や衝撃の強さ)怪我の内容同乗者の怪我との比較などの事情をもとにケースバイケースで判断をしていくことになります。


一般に、幼児が車外に投げ出されていたり、座席から飛ばされて身体を強く打ちつけている場合などは因果関係が認定されやすいと言われています。


3.加害者の過失が著しい場合


大阪地判平成20年3月13日交民41巻2号310頁は、加害者が考え事をしながら時速70キロメートルで加害車両を走行させたまま赤信号の交差点に進入して交差車両と衝突した事案です(被害者と加害者の基本過失割合は0:100)。
本件について裁判所は、チャイルドシート不使用について被害者側の過失として10%を加算したものの、加害者にも著しい前方不注視を理由に10%の過失を加算し、結果的に過失相殺を否定しています。

4.監督者等が同行していない場合


チャイルドシート不使用は、幼児自身ではなく、同子と身分上ないし生活関係上一体をなすと認められる者の過失と扱われます。

そのため、父母などの監督者が被害車両を運転していた場合被害車両に同乗していた場合、あるいは第三者の運転する車両に幼児を乗せて監督者は別の車両に分乗して移動していた場合などについては過失相殺が行われますが、チャイルドシート不使用に監督者等が関与していなかったようなケースでは過失相殺が否定される余地があります。


まとめ


チャイルドシート不使用は、生命身体へのリスクに繋がるだけでなく、その後の賠償においても過失相殺の対象となり得てしまいます。

生命や健康はお金で代えられるものではありませんが、賠償金はお怪我を負ったお子様の治療や今後の生活資金となるお金です。チャイルドシート不使用には生命身体と賠償という二重のリスクが存在することが広く認知されることで、少しでも着用率の向上に繋がれば幸いです。


また、不幸にも事故が起きてしまった場合、ぜひ一度お近くの弁護士にご相談ください。

一般論としてチャイルドシート不使用が過失相殺の対象になると言っても、最終的にはケースバイケースでの判断が必要です。

さらに、仮に過失相殺の対象となる場合でも、その過失相殺率は通常大きくはありません。裁判例などを見ていると、加害者側代理人が20%~40%の過失相殺率を主張するケースも見受けられますが、このような内容で示談を行うことは多くの場合適切ではありません。


この記事の筆者について


私は、浜松市を拠点に活動している弁護士で、交通事故について豊富な取扱い経験を有しております。

過失相殺だけではなく、慰謝料、休業損害、後遺障害、物損など交通事故に関するあらゆるお悩みに対応可能ですので、お困りの際にはぜひお気軽にお問い合わせください。