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【弁護士解説】相続放棄の手続と熟慮期間の伸長

浜松市の弁護士、鈴木悠太です。

被相続人のマイナス財産(借金など)を引き継ぎたくない場合、相続放棄という手続を検討する必要があります。

今回は、相続放棄の基本事項について解説します。

配偶者や親に借金があって不安を感じている方はぜひご一読ください。

 


相続放棄は家庭裁判所での手続

相続放棄とは、借金(相続債務)を含む一切の遺産を承継したくない場合に行う手続です。

相続放棄は、(被相続人の最後の住所地を管轄する)家庭裁判所に、申述書と呼ばれる書面を所定の添付書類とともに提出して行います(民法938条)。

 

よく巷で「遺産は××が継いでおり、自分は放棄した」という話を聞きます。しかし、相続人間で合意(遺産分割や相続分の譲渡・放棄等)しただけでは相続放棄としての法的効力はなく、債権者との関係では、各相続人は法定相続分に応じて借金の返済義務を負っていることになります(最判昭和34年6月19日民集13巻6号757頁)。

 

相続債務については、相続人間で(免責的)債務引受の合意をして債権者の承諾を得る方法でも回避が可能です。もっとも、被相続人のマイナス財産が大きい(または未知数の)ケースでは、相続放棄が単純かつ手堅い方法になります。

 

相続放棄の申述を行うと、家庭裁判所が申述内容等を審査し、問題なく受理されれば「相続放棄受理通知書」という書面が発行されます。将来、被相続人の債権者から請求を受けることがあっても、この相続放棄通知書を示せばさしあたり相続放棄の事実を明らかにできます。

相続放棄通知書を紛失してしまった、または相続放棄に関する正式な証明書類が必要になった場合には、家庭裁判所に申請をすれば「相続放棄受理証明書」という書面を発行してもらうことができます。

 

なお、審査の過程で、家庭裁判所から照会書という書面が届く場合があります。照会書が届いた場合は、同封されている回答書に所定事項を記入し、必ず返送するようにしましょう。

 


相続放棄するとどうなるか

相続放棄をした人は、最初から相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。そのため、借金などのマイナス財産だけでなく、預金や不動産といったプラス財産についても承継できません。

また、最初から相続人として存在しなかったものと扱われる結果、他の親族に次のような影響が及ぶことになります。

  1. 残された相続人の法定相続分が増える《ケース①》
  2. 本来なら相続人でなかった後順位の親族に相続が回ってくる《ケース②》

 

《ケース①》

被相続人(父)が死亡。

法定相続人は子2人(法定相続分各1/2)だったが、うち1人が相続放棄した。

↓

相続放棄により、残された法定相続人の相続分が100%になる。


《ケース②》

被相続人(父)が死亡。

法定相続人は配偶者と子1人(法定相続分各1/2)だったが、子が相続放棄した。

被相続人の両親を含む直系尊属は他界しているが、兄(伯父)が1人いる。

↓

・相続放棄によって第一順位の子が不存在となったが、第二順位である直系尊属が既に他界しているため、第三順位の兄弟姉妹(兄)が法定相続人となる(民法889条1項)。

・各自の法定相続分は配偶者3/4、兄1/4となる(民法900条3号)。

 


相続放棄の期限(熟慮期間)は3ヶ月

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に行わなければなりません(民法915条1項本文)。この期間を「熟慮期間」といいます。

 

熟慮期間を過ぎると相続放棄ができなくなってしまう(相続財産を全面的に承継したものとみなされてしまう)ので注意が必要です(法定単純承認:民法921条2号)。

 

熟慮期間は延長できる

ご自身が相続人となった場合、熟慮期間の3ヶ月以内に、相続財産の全容を調査し、相続放棄等を行うか否かを判断しなければいけません。しかし、ケースによっては、3ヶ月以内に必要な調査が難しい場合もあります。

 

そのような場合、家庭裁判所に対し、熟慮期間伸長の申立てを行うことができます(民法915条1項ただし書)。

 

熟慮期間をどの程度まで延長できるかは家庭裁判所の判断次第ですが、一般的な考慮要素として、①相続財産の構成の複雑性、②相続財産の所在地、③相続人の居住地、④プラス・マイナス財産の存在、⑤限定承認を行う際の共同相続人全員の協議期間、⑥財産目録の調製期間などが挙げられます(大阪高決昭和50年6月25日家月28巻8号49頁)。

 

複数の文献において、長期の伸長を認めた先例として、約1年という事例(福岡高宮崎支部決平成10年12月22日家月51巻5号49頁)が紹介されております(能見善久ら編「論点体系 判例民法11〈第3版〉」、2019年6月20日、第一法規株式会社など)。

 

私個人の感覚で恐縮ですが、相続債務の詳細について調査が必要な事案ですと、2回(6ヶ月)程度の伸長であれば認められる余地がありますが、それ以上になると、何か特別な理由が必要になってくる、というイメージがあります(これについては、事案や裁判官の考え方によっても変わってきますので、あくまで参考程度とご理解ください)。

 


弁護士に依頼するメリット

相続放棄は借金を相続しないための代表的な方法ですが、プラス財産についても承継できなくなってしまうため、事案によっては別の手続を検討した方が良い場合もあります。

 

事案に則した適切な方針を選択するには、必要に応じて熟慮期間の伸長を行いつつ、限られた時間で相続財産を調査しなければなりません。さらに、相続放棄を行う際には禁止事項のようなものもあり、遺産の管理に注意が必要です。

 

加えて、ご自身が相続放棄を行うことで、別の親族に影響が及ぶ可能性があります。そのため、放棄に先立って事前に該当する親族に連絡し、場合によっては併せて相続放棄を行うことが望ましいです。

 

相続放棄を弁護士に依頼することで、財産調査や伸長の手続はもちろん、放棄によるご親族への影響も正確に把握することができます。また、関係するご親族の相続放棄にまとめて対応できるケースもあろうかと思います。

被相続人の負債が心配なケースについては、ぜひ弁護士にご相談ください。

 

この記事の筆者について

私は、静岡県浜松市で法律事務所を開設している弁護士で、遺産相続はもちろん、相続放棄の案件についても積極的に取り扱っています。

相続(遺産分割・遺言)

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