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離婚裁判における訴状の注意点

先日、事務所内で離婚訴訟の訴状チェックに関する会議を行いました。

 

作成文書のチェックは、事務スタッフの重要な業務の1つです。特に訴状などの裁判所提出文書は形式面が厳格に決められており、これを誤ると文書の補充や訂正(補正)の対象となり、時間のロスに繋がりかねません。

こうした形式的不備を防止するには弁護士と担当事務のダブルチェックが有効であり、当事務所でも全ての案件で実施しています。もっとも、ただ漫然と文書を読むだけではチェックの精度は上がっていかず、同じ見落としを繰り返してしまいます。

 

各スタッフの理解度を確認する過程で、私自身も改めて関連条文や書籍を見直し、とても有意義な時間にすることができました。

知識の整理を兼ねて、離婚請求における訴状(形式部分)の要件を以下でまとめたいと思います。

 

1.当事者の表示

 

⑴ 本籍の記載

離婚訴訟では、訴状に当事者の本籍を記載するのが一般的です。

本籍の記載は条文上要求されるものではないため、本籍が記載されていない訴状であっても手続上は問題ありません。しかし、人事訴訟においては裁判の結果が戸籍に影響を及ぼすため、「当事者の表示」に本籍を記載しておくことが望ましいとされています。

また民事訴訟と異なり、人事訴訟では自然人の特定方法として戸籍上の表示を用いなければならず、通称などを用いることができません。そのため、本籍を記載するか否かにかかわらず、訴状の「当事者の表示」を記載する際には戸籍謄本を参照することが必須となります。

 

⑵ 管轄

離婚訴訟の管轄については、人事訴訟法第4条以降に定められています。

離婚調停が相手方住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属するのに対し(家事事件手続法245条1項)、離婚訴訟では原告の住所地を管轄する家庭裁判所にも管轄があります(人事訴訟法第4条1項)。

また、人事訴訟の土地管轄は専属管轄であるため、合意管轄や応訴管轄は認められません(民事訴訟法13条1項)。

 

2.請求の趣旨

 

⑴ 財産分与の特定

離婚請求と併せて、子の監護に関する処分(養育費や面会交流)、財産分与又は年金分割を希望する場合には、附帯処分の申立てを行う必要があります(人事訴訟法32条1項)。

財産分与については、「やむを得ない場合を除き,分与すべき額や方法等を明示しなければならない(人訴規19条Ⅱ参照)」という見解があります(岡口基一「要件事実マニュアル第6版 第5巻」592頁 株式会社ぎょうせい、令和2年12月10日発行)。しかし実際には、提訴の段階では相手方の財産が必ずしも明確でない場合等があり、こうした明示が難しいことも想定されます。

私としては、附帯処分はもともと非訟事件であり、処分を求める際に上記のような特定をする必要はない(もちろん可能な限り特定する方が望ましいですが)と考えています。実際に、浜松の家庭裁判所でも、当事務所から「相当額」の財産分与を求めるといった請求の趣旨を記載した訴状について、補正の対象にはなっていません(引用した文献にも、分与額等の明示を不要とする判例が紹介されています)。

⑵ 関連請求(慰謝料)

不貞行為などの事案では、離婚請求と併せて、慰謝料請求を行うことがあります。

本来こうした慰謝料請求(不法行為に基づく損害賠償請求)は、地裁に提起すべき民事訴訟なのですが、人事訴訟法第17条1項により、離婚請求との併合請求が認められています。配偶者だけでなく、不貞相手に対する慰謝料請求を併合することも可能です(最判昭和33年1月23日家月10巻1号11頁)。

なお慰謝料請求には、①対象となる配偶者の行為それ自体に基づく慰謝料(「離婚原因慰謝料」などと呼ばれています)、②離婚に至ったことに対する慰謝料(「離婚慰謝料」などと呼ばれます)の2つがあり得ます。そのため、自分が行おうとしている請求が①②のいずれであるのかが訴状の記載から明確であることが必要です。

⑶ 遅延損害金の起算日

財産分与や離婚慰謝料は、離婚を命ずる判決が確定することではじめて債権が発生します。したがって、遅延損害金の記載は「離婚判決確定の日の翌日」となります。

同様の理由から、財産分与や離婚慰謝料について仮執行宣言を求めることは不適切です

3.その他

⑴ 調停前置

離婚訴訟を提起するには、原則として、先行して離婚調停の申立てを行わなければいけません(家事事件手続法257条1項)。

そのため、訴状において、本件につき調停前置がなされていることを記載する必要があります。記載にあたっては、①調停が係属していた裁判所名、②事件番号、③調停終了の経緯(終了日および不成立・取下げ等の別)などが書かれているかをチェックします。

離婚の訴状では、調停前置の証拠として家庭裁判所から取得した事件終了証明書を添付するのが一般的です。もっとも、離婚調停を行ったのと同じ家庭裁判所に離婚訴訟を提起する場合であれば、事件終了証明書の添付は必須というわけではありません。

⑵ 訴え提起手数料

離婚請求の訴額は160万円で、印紙額としては13,000円となります。

離婚請求に慰謝料請求を併合する場合、各請求のうち多額な方を訴額とします。

附帯請求の手数料は次のとおりです。ちなみに、親権者指定の申立ては附帯処分ではなく、あくまで裁判所の職権発動を促しているにすぎないため手数料は発生しません。

・養育費:子の人数×1,200円

・財産分与:一律1,200円

・年金分割:情報通知書1通あたり1,200円

なお、離婚調停が不成立になった旨の通知を受けた日から2週間以内に離婚訴訟を提起した場合、調停申立ての時に訴え提起があったものとみなされ(家事事件手続法272条3項)、かつ調停で納めた申立手数料を訴え提起手数料に流用することができます(民事訴訟費用等に関する法律5条1項)。

 

 

おかげさまで事務所開設より3年が経ち、徐々に教育・研修に充てられる時間を増やすことができるようになってきました。今後も、地域の皆様のご要望にお応えできるよう、意識的に自己研鑽の機会を作っていければと思います。