令和4年4月1日から,民法の成年年齢が18歳に引き下げられます。これにより,18・19歳の方について,親権者の同意等なく,自分の判断と責任で取引その他の活動ができるようになります。
従前,離婚事件においては,養育費の終期は基本的には20歳と考えられてきました。成年年齢が20歳であったこともあり,養育費の終期について「成年に達する日の属する月」等と定める離婚協議書等も散見されました。
今回,成年年齢が引き下げられたことで,今後は養育費の終期を18歳と解釈するべきなのでしょうか?
また,法改正の時点で既に養育費の終期が合意されているケースについてはどのように考えるべきなのでしょうか?
なお,以下の内容には個人的見解・理解が含まれておりますことをご了承ください。
1.今後の調停・審判・離婚判決における養育費の終期
⑴ 原則として18歳とする見解
養育費とは,離婚後に非監護親が支払う「子の監護に要する費用」をいい(民法766条1項),子のために監護親が行使する権利(請求権)です。
子が親権(監護権)に服するのは成年までの間であり,民法第766条1項の「監護」の対象となるのは未成年の子です。この点を重視すると,監護親の権利である養育費の終期は成年年齢である18歳と考えることになります。
また,成年年齢に達した者は単独で法律行為を行える以上,働くことができるのであれば,自ら働き生計を立てるのが原則という考え方もできます(秋武憲一「離婚調停」第4版301頁,日本加除出版,2021年4月20日。ただし,同書においても,成年後の養育費について父母で合意することを否定しているわけではありません)。もちろん,成年後であっても,就学中その他の理由で自ら生計を立てられないケースはあります(経済的に自立できなくてもやむを得ない状況にある子を「未成熟子」といいます)。この場合,子が自らの権利として親に対して扶養料の請求を行うことで解決を図ることになります(民法877条1項)。
⑵ 今後も20歳を基本とする見解
養育費の終期を18歳とする見解は,民法第766条1項と整合的で,法解釈としては分かりやすい面があります。
しかし,文部科学省・令和2年度学校基本調査・年次統計によれば,わが国の高等教育機関(大学・短大・専門学校)への進学率は83.5%に上っており,18歳に達した子の相当数が未成熟子として監護親の監護下にあるのが実情といえます。
そして,養育費も扶養料も子に対する生活保持義務の履行として金銭であり,実質的な内容は同じです。
そうであるならば,成年年齢到達後の部分を含めて養育費として解決できた方が,社会実態に合っており効率的と考えられます。特に,養育費の請求中に子が18歳になってしまったケースについて,養育費の終期を成年年齢(18歳)とすると,成年後の部分について子を当事者とする調停・審判を別途申し立てる必要が生じてしまい,未成熟子の利益が損なわれる懸念もあります(法曹会「養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究」52頁以下では,成年年齢の引下げによって未成熟子の保護が後退することは法改正の趣旨と整合しないという点が強調されています。この点,法務省のウェブサイトにおいて,成年年齢引下げと養育費との関係について注意喚起がなされています。)。https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00230.html
養育費の終期を成年年齢(18歳)と一致させないとする見解は,民法第766条1項の直接適用又は類推適用によって,未成熟子を監護する監護親に対し,養育費の請求を認めることになります。そして,対象となる子が未成熟子か否かについては,法改正の前後で社会実態に大きな変化がないことから,これまでの実務と同様,特に事情がないケースでは20歳を基本としていくものと考えられます。
前述した「養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究」は,養育費の終期を成年年齢(18歳)と一致させるべきではないとの見解に立っており,同書が実務に与える影響は大きいと考えられます。
成年後の未成熟子について民法第766条1項を適用することについては,未だ議論が煮詰まっていない感があります。もっとも,実務的な観点で言えば,私個人としても,養育費の終期を成年年齢(18歳)で区切ることは実際的ではないと考えています。
一般に,生活保持義務に基づき算定される養育費・扶養料は,非監護親が「『無理なく支払える』と考える金額」よりも高額になる傾向があります。そのため,未成熟子が不足のない養育費・扶養料を得ようとすれば,非監護親との間で,ある程度踏み込んだ交渉を行うことが必要となる場合があります。しかし,とりわけ子と非監護親との関わりが良好でないケース等では,子が当事者として非監護親を相手取ること自体が権利行使を心理的に妨げてしまう可能性もあるように思われます。
また,前述した進学率に照らせば,仮に養育費の終期を成年年齢(18歳)に区切ったとしても,将来,高い確率で未成熟子としての扶養料請求が問題になるものと予想できます。こうした将来の紛争リスクは,非監護親にとっても不利益が少なくありません。
したがって,監護親・非監護親どちらの立場に立った場合であっても,現状,養育費の終期については,当事者間の協議により,ご家庭ごとの実態や将来予測に則した合理的かつ明確なルールを合意しておくのが賢明と考えます。
2.既に行われた合意について
法改正以前に,養育費の終期を「成年に達する日の属する月」等と合意していたケースについては,基本的には成年年齢引下げの影響は受けないと考えるのが相当です。合意当時において成年年齢=20歳であった以上,「養育費は20歳まで支払う」というのが当事者の意思であったと言えるからです。
3.養育費を決める際の注意点等
改正法の施行が迫った現状において,養育費の終期を「成年に達する日の属する月」と定めることは,後に疑義を生じさせてしまうため避けるべきです。「20歳に達する日の属する月まで」「22歳に達した後に初めて到来する3月まで」といった,一見して明らかな記載を心掛けましょう。