浜松の弁護士、鈴木悠太です。
証拠のために相手方との会話をこっそり録音しても大丈夫なのか?
これ、非常に気になる疑問ですよね。
今回は、秘密録音の違法性等について解説したいと思います。
基本的には違法ではない
結論から言うと、証拠のために相手方との会話を秘密録音することは、基本的には違法ではないと考えられています。
会話において、話者は自らの意思で聞き手に言葉を投げかけています。言い換えると、自分に関する情報を積極的に開示したということに他なりません。勝手に録音された方からすれば気持ちの良いものではないですが、録音の対象が「話者自らが聞き手に渡した情報」であることからプライバシー侵害の程度は低く、いわゆる「法律に触れる問題」とまではいえないことが多いでしょう。
《最決平成12年7月12日刑集54巻6号513頁》
詐欺被害に遭ったと考えた者が証拠のために自分との会話内容を秘密録音した事案について、「このような場合に、一方の当事者が相手方との会話を録音することは、たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであっても、違法ではなく」と判示。
録音データの取扱いには注意!
秘密録音自体が適法であっても、録音内容をみだりに第三者に漏洩することは問題です。話者としては、あくまで聞き手に対して情報(言葉)を開示したにすぎず、その内容を他者に知られることを通常は想定していないからです。
録音内容を漏洩する行為は話者に対する不法行為(民法709条)が成立する可能性があるほか、ケースによっては名誉毀損罪(刑法230条1項)に該当することもあり得ます。
他人の会話等の録音(盗聴)
秘密録音と似て非なる行為が盗聴です。盗聴とは、他人の生活状況や他人同士の会話等を秘密で録音する行為を指します。
意外に思われるかもしれませんが、日本において盗聴それ自体は犯罪ではありません。ただし、盗聴に付随する次のような行為は犯罪に該当します。
《盗聴に関連する犯罪の一例》
・録音機を設置するために他人の住居等に侵入する行為
→ 住居侵入罪(刑法130条)
・盗聴器を設置するために他人の家具・家電等を壊す行為
→ 器物損壊罪(刑法261条)
・電気通信事業者の取扱中に係る通話の盗聴
→ 電気通信事業法違反(同法4条、179条)
・有線電気通信に係る通話の盗聴
→ 有線電気通信法違反(同法9条、14条)
・傍受した無線通信の漏洩又は窃用
→ 電波法違反(同法59条、109条)
加えて、盗聴については、前述した秘密録音と比べて、民事上の責任(損害賠償)を問われるリスクが高いといえます。話者からすれば、明かすつもりのない他者との会話や生活状況等を知られているわけですから、まさにプライバシー侵害の問題となるのです。
《東京地判平成25年9月10日》
妻が、夫の言動を録音するため、同女が外出する際、自宅にICレコーダーを設置した行為について、「一般に、他人間において、他者が自宅で過ごしているときの状況を本人の了解を得ずにICレコーダーで盗聴する行為は、特段の事情がない限り、違法というべきであるところ」、当該行為を夫婦間で行うことは「配偶者に対する不信感の表れであり、婚姻関係の基礎となる信頼関係を傷付ける」とし、不法行為の成立を認めた。
なお、慰謝料の金額については、問題となる行為の時点で夫婦の信頼関係は既に低下していたことや、プライバシー侵害について実質的な損害を裏付ける証拠がない(ICレコーダーが夫に見破られていた)ことを理由に50万円と認定した。
妻側は、夫の暴言等を証拠化する目的であり違法ではないと反論していますが、少なくとも裁判所の心証としては、妻側の主張するような暴言等がそもそも存在したのか懐疑的なケースだったようです。
録音データの証拠能力
仮に録音行為が違法だった場合、当該録音を証拠として裁判で提出することは許されるのでしょうか?
民事裁判では、違法に収集された証拠であっても、その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものでなければ、証拠能力が認められています(東京高判昭和52年7月15日判タ362号241頁)。
このように、違法に収集された証拠であっても、それが余程悪質でない限り、裁判の証拠として提出できるというのが実務での一般的な取扱いです。
《東京地判令和2年8月24日》
妻が夫の不貞相手に慰謝料請求した事案で、妻側から証拠提出された夫と不貞相手との会話の録音データについて、その録音内容は「プライバシー侵害の程度が高い」としつつ、①事案の内容、②妻が録音に至った経緯、③妻が録音データを証拠提出せざるを得なかったのが不貞相手の応訴態度に起因することに照らせば,著しく反社会的な手段方法で不貞相手の人格権を侵害したとまではいうことができないとして証拠能力を認めた。
ただし、東京高判昭和52年判決では、会話を引き出した経緯や方法が誘導的であったこと等を理由に、結論としては録音内容どおりの事実を認定しませんでした。
立証における証拠の実質的な価値を証明力といいます。東京高裁は、酒席での会話を秘密録音したテープについて証拠能力は認めたものの、証明力については否定的に評価したということになります。
まとめ
録音は広く用いられている証拠収集方法ですが、態様によっては民事上の損害賠償責任や刑事責任を追及される可能性もあり、ノーリスクというわけではありません。録音を行う際には、超えてはいけない一線を意識したうえで、できる限り証明力の高い証拠を確保したいものです。
録音を含む証拠収集についてご判断に迷うような場合は、ぜひお近くの弁護士にご相談されることをお勧めします。
この記事の筆者について
私は、静岡県浜松市で法律事務所を開設している弁護士で、一般民事、企業法務、家事事件(離婚、相続など)、借金問題など幅広く取り扱っています。
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