今日は,反対株主からの株式買取請求の場面での株式の価値の評価方法として収益還元法を採用した場合に、株式に市場性がないことを考慮してディスカウントを行うことができないとした最高裁の決定を見てみましょう。
最高裁平成27年3月26日第一小法廷決定
【事案の概要】
本件は、相手方を存続会社、非上場企業である株式会社A社(以下「A社」という。)を消滅会社とする吸収合併に反対したA社の株主である抗告人が、A社に対し、抗告人の有する株式を公正な価格で買い取るよう請求したが、その価格の決定につき協議が調わないため、抗告人が、会社法786条2項に基づき、価格の決定の申立てをした事案である。
非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価(非流動性ディスカウント)をおこなうことができるかが争点となり,原決定では,非流動性ディスカウントができると判断していた。
【裁判所の判断】
裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことはできない。
【判例のポイント】
非流動性ディスカウントは,非上場会社の株式には市場性がなく,上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ,収益還元法は,会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって,同評価手法には,類似会社比準法等とは異なり,市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。
2 吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が、吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面、それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置くと、収益還元法によって算定された株式の価格について、同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは、相当でないというべきである 。
収益還元法という株式評価方法の特質(ポイント1)及び反対株主の株式買取請求権の趣旨(ポイント2)を考慮して,非流動性ディスカウントを行うことができないという結論が導かれています。