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株式4(大阪地方裁判所平成25年1月25日)

今日は,譲渡制限株式の評価に関し,対象会社特有の投下資本の回収可能性に係る事情からその事情に応じた減額率を採用した決定を見てみましょう。

大阪地裁平成25年1月21日決定

【事案の概要】

1 X(Y1社の発行済株式総数の約18.9%を保有。なお,単独で支配可能な保有割合を有する株主・ 親族グループは存在しない。)が保有するY1社の株式につき,Y1に譲渡承認を求めたところ,Y1は譲 渡を承認せず,本件株式の半分をY1自 身が買い取り,残り半分の指定買取人としてY2を指定する旨をXに通知した。
2 Xは,会社法144条2項に基づき,裁判所に本件株式売買価格の決定を申し立てた。本件株式の売買価格に関しては,X・Y1・Y2がそれぞれ依頼した専門家による鑑定価格のほか,裁判所が依頼した公認会計士Gの鑑定評価(G鑑定)が提出された。G鑑定はXが少数株主であるとして配当還元法による評価額1株300円を20%の割合,Y1の株主構成からするとXが経営に影響を与える可能性もあったとして収益還元法による評価額1株3000円を80%の割合で加重平均して,本件株式の価格を1株2460円であるとした。

【裁判所の判断】

G鑑定の鑑定額を採用

【決定のポイント】

1 少数株主の企業価値に対する支配は基本的に配当という形でしか及ぶことはないから,その株式価値の評価に当たり,配当還元法をある程度考慮することは不合理ではない。しかも,少数株主は将来の配当をコントロールすることができないから,現状の配当が不当に低く抑えられているとしても,その限度における配当を期待するほかない。
したがって,現状の配当を前提に評価することに不合理な点はないというべきである。

2 譲渡制限会社の株式については,投下資本回収に制約があることを理由に30パーセント程度価格の評価が下がるのが一般的である。ただし,対象会社特有の投下資本の回収可能性に係る事情からその事情に応じた減額率を採用することにも合理性がある。
G鑑定は,Y1の事業の特徴,株主構成の特徴から配当による投下資本の回収という形で株式譲渡による投下資本回収の制約をある程度補えることを理由とする。…他の親族グループとの利害関係が一致すれば,保有資産の売却によって配当額を増加させることも十分可能であるといえる。G鑑定の判断は,非現実的なものということはできず,合理性が認められる。
G鑑定が非流動的ディスカウント率を一般的な30%よりも低い15%としたことは合理性を欠くものではない。

3 Xは,他の親族グループとの協力関係を築いてY1の支配を獲得する可能性があるだけでなく,Y1の支配を望む他の親族グループにとって,無視できない存在である。
そうすると,Xの保有割合自体が過半数に達していなくとも,Xが経営に影響を与える可能性がないとはいえず,支配株としての側面を否定することはできないとみるべきである。
よって,G鑑定の加重平均割合が合理性を欠くものではない。

4 以上によれば,G鑑定のとおり,収益還元法による価格3000円を80%,配当還元法による価格300円を20%の割合で加重平均すると,本件株式の価格は,1株2460円(3000×0.8+300×0.2)となる。

非流動性ディスカウントとは,非公開会社の株式が流通性に劣ることからなされる株式価値の減額(ディスカウント)のことをいいます。

裁判所が採用した鑑定においては,単独で支配可能な保有株式を有していない株主であっても,会社を支配する可能性があるという当該会社の個別事情を考慮して,通常より低い非流動性ディスカウント率を採用しています。