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逸失利益と定期金賠償【交通事故重要判例】

1.問題の所在

 

わが国では、基本的に一時金賠償方式が採用されています。交通事故等の裁判では、口頭弁論終結時点での将来予測に基づき、被害者に今後発生するであろう損害額を算定し、すべての損害を一時金として支払うよう賠償義務者に命じられます。

これに対し、もう一つの考え方として定期金賠償方式があります。定期金賠償方式とは、交通事故により今後発生していく損害を毎月々賠償させるという方法です。

定期金賠償方式は、若年者等に重度の後遺障害が残存したケースで特に重要になります。

こうしたケースでは被害者について介護が必要となり、一生涯にわたり毎月の介護費用を負担し続けなければなりません。一時金賠償方式においてもこうした将来介護費の支払いを受けることはできますが、【中間利息控除】という処理により、実際に被害者が手にできる金額はかなり減額されてしまいます(令和2年の民法改正で民事法定利率が3%になったことでこの問題は若干緩和されましたが、それでも中間利息控除が被害者にとって大きなネックであることは同様です)。

また、介護費用に係る損害は長い年月をかけて現実化していくところ、インフレーションなどにより、一時金賠償で得た金額では実際の介護費が賄えないという事態も起こるかもしれません。

こうした観点から、実務上、加害者(保険会社)に対して定期金賠償を求めるケースは少なからず存在します。裁判でも、将来介護費について定期金賠償方式を採用するものが増えてきています。

 

 

2.最判令和2年7月9日民集74巻4号1204頁

 

本判例は、最高裁において初めて逸失利益について定期金賠償を認めたものです。

 

また本判例では、逸失利益に係る定期金賠償の終期は就労可能期間の終期であるところ、たとえその前に被害者が死亡したとしても、交通事故の時点でかかる死亡が客観的に予測されていた等の特段の事情がない限り、就労可能期間の終期が死亡時となるものではないとしています。

 

高齢者などの例外を除き、逸失利益を算定する際は、被害者について67歳まで就労が可能であることを前提とするのが一般的です。たとえば、症状固定の時点で被害者(Aさん)が22歳であった場合、67-22=45年間にわたり収入減が起こった、と考えます。

この事例で問題となるのが、Aさんが事故と無関係な事情により裁判の途中で(たとえば24歳で)亡くなったケースです。最判平成8年4月25日(民集50巻5号1221頁)は、このようなケースであっても、特段の事情がない限り労働能力喪失期間を45年として逸失利益を算定するとの立場を採用しています。

 

本判例も、この平成8年判決に倣ったものといえます(ただし、前述した定期金賠償の趣旨からすると、Aさんのように被害者が裁判中に亡くなったような場合、Aさんの相続人について定期金賠償が認められる余地は少ないように思われます)。

 

 

3.今後の課題

 

本判例は、重度後遺障害の事案における被害救済を一歩前進させるものといえます。

もっとも、定期金賠償方式にもデメリットはあり、一概に一時金賠償方式よりも定期金賠償方式の方が優れているともいえません。どちらを選択するかはケースバイケースです。

 

定期金賠償に限らず、交通事故の賠償についてご不明な点があれば、ぜひ弁護士にご相談ください。