契約書では、次のように、合意管轄について定めておくことが通常です。
本件に関する紛争は、静岡地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
合意管轄の必要性
管轄とは、裁判になった場合に何処の裁判所に訴えを提起すべきか、という問題です。
法律上、訴えは被告の普通裁判籍(法人については、その主たる事務所又は営業所)の所在地を管轄する裁判所に提起するのが原則とされているほか(民事訴訟法4条1項)、財産権上の訴えについては義務履行地(民法484条により、多くの場合は債権者の住所)を管轄する裁判所に提起することが可能です(民事訴訟法5条1号)。
もっとも、裁判所の管轄については、第一審に限り、当事者の合意(書面に限る)によって決めることができます(民事訴訟法11条1項2項)。これが合意管轄です。
たとえば、浜松市の会社が札幌市の会社と取引していた場合、ケースによっては札幌地方裁判所での訴訟が必要となります。電話会議やウェブ会議を活用できるとはいえ、弁護士や関係者の出廷が必要となる場合はあるため、旅費や日当で相応の負担が生じます。
浜松の会社とすれば、静岡地方裁判所を専属的合意管轄と定めておく方が有利かと思われます(ただし、土地管轄については当事者の力関係がものをいうため、必ずしも最寄りの裁判所を指定できるケースばかりではありません)。
リーガルチェックのポイント
合意管轄については、「専属的」合意管轄と「付加的」合意管轄があります。
付加的合意管轄とは、民事訴訟法上の管轄裁判所に別の裁判所をプラスするというイメージです。一方、専属的合意管轄は、合意した裁判所でしか訴えを提起できないという意味になります。
先ほどの例でいえば、合意管轄として静岡地方裁判所浜松支部を定めたとしても、それが付加的合意管轄であれば、結局、事案次第では札幌地方裁判所への訴訟提起が可能となってしまいます。
そのため、自己に有利な合意管轄を定める場合には、それが「専属的合意管轄」であることが明記されているかをしっかりと確認することが重要です。
加えて、契約書では、事物管轄についても合意が可能です。
事物管轄とは、第一審の訴訟を簡易裁判所と地方裁判所のどちらが担当するかという問題です。法律上、訴額が140万円以下の訴訟については簡易裁判所に訴訟提起するのが原則となります。
しかし、簡易裁判所では、企業間取引のような複雑な事案に十分対応できない可能性も現実問題として懸念されます。
そのため、冒頭のサンプルのように、合意管轄として地方裁判所を定めておくことが無難と考えます。